向直ったが早いか

続いてまた二尾(ひき)、同じようなのが鉤(はり)に来た。少年は焦(あせ)るような緊張した顔になって、羨(うらやま)しげに、また少しは自分の鉤に何も来ぬのを悲しむような心を蔽いきれずに自分の方を見た。
 しばらく彼も我も無念(しん)になって竿先を見守ったが、魚の中(あた)りはちょっと途断(とだ)えた。
 ふと少年の方を見ると、少年はまじまじと予の方を見ていた。何か言いたいような風であったが、談話の緒(ちょ)を得ないというのらしい、ただ温和な親しみ寄りたいというが如き微笑を幽(かすか)に湛(たた)えて予と相見た。と同時に予は少年の竿先に魚の来(きた)ったのを認めた。
 ソレ、お前の竿に何か来たよ。
 警告すると、少年は慌(あわ)てて向直ったが早いか敏捷に巧い機(しお)に竿を上げた。かなり重い魚であったが、引上げるとそれは大きな鮒であった。小さい畚(ふご)にそれを入れて、川柳の細い枝を折取って跳出(はねだ)さぬように押え蔽った少年は、その手を小草(おぐさ)でふきながら予の方を見て、
 小父(おじ)さん、また餌をくれる?
と如何にも欲しそうに言った。
 アア、あげる。


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